きみのパーカ 【優しい心遣いに、またぼくは好きになる。】

昨日、ギリギリなんとか定時で作業が終わった。


しょうじき「これは間に合わないだろう」と思った。


自分の持ち場の近くで、手間の掛かる作業。

目のまえには、手付かずのたくさんの商品。


あきらめたくはないけれど、

「終わらないよね、これ」とうんざりした気持ちにさせられる。


そんなとき、ぼくの視界の右側から、

遠慮がちにスタスタと歩いてくる女の子。


サッと台車に積まれた荷物を運んで行く。


もちろん声を掛けてくれたり、

「手伝うね」と云ってくれることもうれしい。


でも、ぼくが好きな女の子たちは、

さりげない心遣いがほんとうに優しい。


だからぼくは、どんどん好きになってしまう。


そうだ、思い出した。

一昨日の朝、ひとつのきっかけがあったんだ。


それはまた改めて書こう。


彼女の行動が呼び水になったのか、

他の女性陣も積極的に手助けしてくれた。


これもまたちがう話になってしまうので、

改めて書くけれど、

ようやく終わったとひと息ついていたら、

離れたところで、最後の最後に作業をしていた女の子。


じつは、もう一年も片想いしているだいすきな女の子。

こういうところで何も云わずに、こっそりと手助けしてくれる。


まわりはもう帰ろうとして、終礼の準備をしている。


衆人環視のなか、近寄るのもどうかなとも思ったけれど、

やはりひと声掛けずにはいられなくて近付いた。


梱包を終えた商品に、宅配便のラベルを貼っている。

手伝おうと荷物を支える。


「貼って!」と差し出される。

シールを剥がし、剥離紙を渡す。


「え! 何? ゴミ? わたし?」


社員や、早く帰りたい同僚が見守るなか、

この二人三脚風味のやり取りって。


倖せすぎるでしょう、我ながら。


しかもこの話、余談のつもりで書いたのに。

長くなってしまったので、またあとで。


ようやく作業は完了し、みんな帰ってしまった。


こっそり手伝ってくれたあの娘も、

最後に手助けしてくれた女の子も。


翌日が休みだということもあり、

作業台の周囲をきれいにしてから帰りたかった。


そうこうしているうちに、

職場には社員がふたりだけ残り、

みんな帰ってしまった。

慌てて「おつかれさま」と挨拶をして去ろうとした、そのとき。


上着を掛けるハンガーから作業着を取る。


一枚残ったパーカ。

なんてことはない、よくあるパーカ。



【ここまでは、ほぼ事実。ここからは、ほとんど妄想】



芳しく愛しい香りが漂う。

ギュッとパーカを抱きしめる。

顔を埋める。

紛うことなき、あの娘の匂い。


いまの職場は、個人用のロッカーなどがない。

ただ、ぼくが担当している作業場には、

ちょっとした荷物を置くスペースがある。

もちろん、ほんとうは私物などの持ち込みは禁止なんだけれども。


そこにパーカを保管しておこうかとも考えた。

あの娘もぼくも、翌日の今日はお休みだから。


いや、それならば持ち帰って洗濯するか、

クリーニングに出しておこうかしらとか。


ダメ、ゼッタイ。

さすがにぼくにもモラルや理性はある。


だからね、一切触れていないよ。

決して深呼吸したりもしていない。


果たして明日の朝、

「おはよう」と声を掛けたあと、

「パーカ忘れたでしょ?」と云えるかしら。

むしろ云わない方が良いのかな。