ようやく認知される!

さいきんほぼ週に一回、

多いときは週に二回通う、

近所のファミリーレストラン。


ホールを担当するパートさんに、

ひとり好みの女性がいる。


なるべく声を掛けるよう努力しているのだが、

なかなか顔を覚えていただけない。


今週は今日で2回め。

横断歩道を渡り、店のまえに着く。


彼女が外を向いて、

窓ガラスを吹いている。


当然すぐに気付くぼく。

目が合う、ふたり。


彼女の脳裏に宿ったものは?


「あ、お客様がご来店された」

「さいきんよくお見えになる方だわ」

「ワインをボトルで召し上がる方」

「カタカタと何かを書いておられる」

「よく読書をされているけれど、少女漫画が多いわ」


入店するまでの15秒くらいで、

勝手にぼくが妄想したことなので正解はない。


ドアを開ければ、当然のように

彼女が迎えてくれる。


だいたいいつもは窓際の席に座るのだが、

あいにく埋まっているか、片付けが済んでいない。


促されるまま、ほぼ中央の席に着く。

結果的にこれが功を奏した。


ハイボールと、ランチセットのハンバーグを注文。

そのとき彼女はぼくに訊いた。


「お料理はすぐにお持ちしてよろしいですか?」


この店のランチには、

スープバーとライス&カレーバーが付いていて、

オプションでサラダバーも付けられる。


食事は二の次で、

お酒を飲んで長居したいだけのぼくにとって、

ありがたいシステムであると同時に、

メインの料理は後回しでも構わない。


そこで、ここ何回か彼女に

「サラダバーなどを先にいただいて、メインはあとから出してしただくことは可能ですか?」などと、およそ画一的なファミレスチェーンのマニュアルからは逸脱した、迷惑この上ない要求を押し付けていた。


二回めに、そのお願いをしたとき、

はじめてしたときと同じ対応だった。


三回目に、またお願いをしたとき、

ややアレンジはされていたが、

やはり似たような対応だった。


マニュアルが存在するのか。

彼女のなかに、ぼく対策があるのか。


後者ならすこしうれしいが、

すくなくとも、

「いつものですね」というような

阿吽の呼吸風味のものは感じられなかった。


冷静に考えれば、

そりゃそうだと思う。


ファミレスチェーンで、

いちいち個人の注文になど応えてなどいられない。


わずかに期待するならば、

それは彼女の記憶に頼るしかない。


果たして今日、彼女はぼくに訊いた。


「お料理はすぐにお持ちしてよろしいですか?」


これはつまり、いつもぼくが

「料理はあとで」と頼んでいることを

承知したうえでの質問?


「はい」と応えたあと、ぼくは云った。


「いつも、すみません」


「いえ」と彼女は笑った。


たぶん彼女のなかに、

パートタイマーとしてのメモリーに、

ワインを飲みながら少女漫画を読む、

細かい注文が多い客の対策ができたのだ。


ただ、それだけなのに、

うれしくてぼくは、

こんなに長々と文章を書いている。


ほんとうは、この続きがあったのだけれど、

それは、また、あとで。